あれは、中学の頃の事である。
いつもの様に放課後、吉祥寺駅前にあった「まんがの森」という漫画専門の本屋さんの一角に平積みされていた、全体的に茶色い表紙の文庫を手に取ってみた。
千葉暁『聖刻1092 旋風(かぜ)の狩猟機(しゅりょうき)』(朝日ソノラマ文庫)であった。
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表紙や挿絵を描いていた幡池裕行先生のイラストに惹かれ購入。

『聖刻1092』の舞台はア・ハーン大陸。神秘の力「聖刻(ワース)」が眠る大地。
聖刻石を然るべき配置に並べた仮面(ペルソナ)を用いて超自然的な力「練法」を操る「練法師」が歴史の裏に暗躍し、やはり仮面の力で動く巨大な人型のからくり人形「操兵」が軍事力として運用されている世界。

中原にある村カロウナに暮らす修行僧・悪たれフェンは、父の遺した老操兵「ニキ・ヴァシュマール」を駆って外の世界に飛び出す事ばかり夢想する少年である。
人間離れした頑強な肉体を持ち、欲望のままに行動するフェンに、ほのかな想いを寄せるリムリア。二人は喧嘩しながらも仲睦まじく暮らしていた。

しかし、《蒼狼鬼》ガシュガル・メヒム率いるグルーンワルズ傭兵団の操兵隊が現れ、村を蹂躙し、リムリアを拉致する事件が起こる。
フェンは怒りに燃え、ヴァシュマールで迎え撃つが、ガシュガルの操兵の操る《気闘法》の前になす術もなく倒されてしまう。
数日後、回復したフェンは、リムリアの養父でソーブン寺の管長ハラハ・ヴァルマーから、リムリア奪回を託され、ヴァシュマールと共に旅立つ。

フェンは旅を続ける中で、自称“カグラ一の占い師”ジュレ・ミィやダマスタの美しい剣士クリシュナ・ラプトゥ、豪放たる聖騎士ガルン・ストラといった仲間と出逢い、やがて練法師たちの組織《聖華八門》、そして《八の聖刻》に絡んだ巨大な陰謀に巻き込まれて行く。

物語の魅力の大半は操兵にある。
操兵には三種類あり、それぞれ《狩猟機》、《呪操兵》、《従兵機》と呼ばれている。
狩猟機は騎士が乗る操兵で、鎧を身に纏った武者の様な姿をしている。武器戦闘が主な役割で、国家においては主な軍事力として扱われている(個人で所有出来るほど安価では無い)。
呪操兵は練法師が乗る操兵で、奇妙な姿(腕が複数ついてたり、左右非対称だったり)をしている。練法を使う為の仕掛けが施されている。格闘には不向きな機体がほとんどだが、中には例外的に格闘を得意とするものもある。
従兵機は下位機種で、首が無く、胸にあたる部分に仮面がついている無骨なデザインのものが多い。兵士用の機体で複数人が乗れるものも多い。

操兵は操縦者である操手と仮面の相性が合わないと、動かせない。
その為、あたかも操手が操兵に対して、生き物の様に接するような描写も多く見られる。
これは聖刻世界を舞台としたTRPG『WARES BLADE』においてもルール化されており、ダイスの目が悪ければうんともすんとも言わなかったり、転倒してしまう事もある。
操兵の操縦は難しい。

千葉先生の操兵の描写は、躍動感すら感じられる。
質感や動きなどが緻密に描かれ、実際に操兵があったらこんな感じなんだろうな、というイメージがしやすい。
そして、壮大で豪快な作風で読んでてワクワクしてくる。
いわゆる「血沸き肉躍る」冒険活劇という感じなのだ。
男の子の世界である。
文庫版は絶版、新書版も10年くらい前に出たが、近頃本屋で見かけなくなった。

この度「聖刻リブート」として新田祐助『聖刻-BEYOND-』(朝日文庫)として蘇る。
非常に楽しみであるが、是非とも以前の作品も復刊して戴きたい今日この頃である。




聖刻-BEYOND- (朝日文庫)
新田祐助
朝日新聞出版
2017-12-07



※以前書いた【書籍】聖刻1092に加筆修正したものです。



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